意思伝達装置やコミュニケーション機器を使うにあたって、どんなことから考えていけばいいでしょうか?

 「進行性の難病で将来身体が動かなくなるので視線入力装置がいいでしょうか?」「もう年寄りで新しい機械は難しいと思います。」「この子はわかっていると思うんですが、スイッチを押せるかどうかがわかりません。」といった相談を受けることがあります。
 このように「どの機器を使うか?」にばかり考えが行ってしまう人が多いようです。

 さて、機器を使うというのはどういうことかというと、「どれにしようかな?」と選んで「よしこれだ」と決定することです。レストランでメニューをみて、「何をたべようかな?」とメニューをめくっていって、「よしアジフライ定食にしよう」と決めるのと、同じことです。
 ここで、「あいさつをする」という行為の3つの方法をご紹介します。
 1つ目は五十音表から1文字ずつ選んでことばを作る方法です。2つ目は「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」と書かれた選択肢から選ぶ方法です。3つ目は「あいさつをする」と指示したら、その時の時刻よって自動的に適したあいさつを伝える方法です。
 いずれの方法にしても、紙に書いた五十音表を指で指して伝える、口文字や透明文字盤を使う、視線入力装置で文字を選ぶ、やり方はいろいろありますが、それは道具の選択という別問題です。
 五十音表から文字を1つずつ選択する方法は、時間がかかることが予想されます。でも五十音表を使えればなんでも言いたいことが伝えられると言われます。しかし本当にそうでしょうか。答える方は難しい。なんでも言っていいと言われて自由に言える人は少ないです。
 選択肢の提示は、答えを引き出すきっかけにもなります。「そういう答え方があるのね」「そういう答えをしていいのね」とわかります。でも、自分の考える答えが選択肢にない場合もあるでしょう。選択方式を使うなら、選択肢の準備はよく考えて行う必要があります。
 3つ目の方法を聞くと「お、コンピュータらしくなってきたな」と思うかもしれませんがそうとは限りません。言葉が通じない外国人にあいさつしようと思って通訳の人に「ご挨拶して」とお願いすれば、相手の言葉や生活習慣に合った適した行動をとってくれます。握手をするとかハグをするとか頭を下げるとか、単なることばの通訳以上に大切な習慣があるかもしれません。

 どの方法がいいということではなく、伝え方一つにしても色々あるということを知っていただきたいです。同じ方法でもかける声の内容によって、相手の返事が変わることもあります。
 スイッチを使う、視線入力を使うという機器や方法は、コミュニケーションの一面だけのことです。そこに思考を縛られないようにしてください。目的は「コミュニケーションをとる」ことです。道具を使うこと、ことばで伝えることだけが、コミュニケーションではありません。
 コミュニケーションは、機械ではなく機会です。