何をして欲しいかだけでも言ってもらえたらお互い楽なのに、とおっしゃっている方がいました。

 「やって欲しいことがあると思うんです。何をして欲しいかだけでもわかれば、やってあげられるからお互いのストレスもなくなると思います。」という相談がありました。
 その方のストレスは大変なことと思いますが、伝えられない側はもっと大きなストレスを感じていることでしょう。

 「寒い」と伝えられた時、どうすればいいでしょうか?エアコンをつける、窓を閉める、毛布をかける、いろんな行動が考えられます。温度を高くすればいいってものでもないです。直接風があたらないようにとか、空気が乾燥しないように加湿器の調整をしたり、机の上のプリンを冷蔵庫に入れることも忘れてはいけません。
 でも「今日は寒いね」と言ったのは、いまが寒いから何かをしてくれと頼んだわけではないかもしれません。冬になってきたと感じた思いを伝えたかっただけかもしれません。「あなたも風邪などひかぬように気をつけてくださいね」という思いで言ったのかもしれません。
 冷たい風が顔にあたった時「二人が出会ったのは雪が降るこんな寒い日だったな」と奥さんとの若かりし日のことを思い出して、その冷たい風を気持ち良く感じているかもしれません。そこで「風が冷たいから窓を閉めますね」と言われちゃうと、そうなんだけどそうじゃない。でも「じゃぁ窓開けときますね」というと、いや、ほんの少しでいいんです、風邪ひいちゃうもん、ということになります。
 そんな面倒くさいやりとりをしている時間はないから、自分で温度調整できるように環境制御装置があればいいのにという話しになって、iPadを使って手元で自分で操作できるようにしときました。用事がないんだったら余計なことは言わないてください。果たして、そんなことになって、よかったよかったと言えるでしょうか。

 自分の介助はすべてロボットがしてくれる時代がくるかもしれません。厳しい介護現場を支援するロボットの登場は朗報です。しかし、コミュニケーションは別です。人と人との関わりは機械に置き換えられることはありません。コミュニケーション機器が使えれば、なんでも伝えることができる、という考えは誤りです。
 伝えるというのは、何かをしてもらうために用事を伝達することだけではありません。相手がいて、その人に思いを伝え、その人から思いが返ってくる、これがコミュニケーションです。

 その人は、この瞬間に何かを感じているんだなってことを忘れてはならない。これが、コミュニケーション機器を使う前に心に留めておく必要なことだと思います。
 コミュニケーションは、機械ではなく機会です。